2006年3月29日 (水)

渋井(以下、S):さて、今回は旅の途中からメールをいたします。「青春18切符」や「北海道・東日本パス」を組み合わせての一人旅です。そのため、これまでずっと各駅停車の旅なのです。いま(3月26日)は、岩手の遠野に来ています。柳田国男の「遠野物語」の舞台であり、日本でも民俗学発祥の地でもあります。私は、こうしたほとんど取材に関係なく、長期の一人旅はほぼ10年ぶりなんです。10年前は仙台市内まで北上し、仙山線で作並温泉に行き、山形を通って、当時住んでいた長野県塩尻市に戻る旅でした。今回の予定は、仙台→遠野→八戸(キリストの墓)→旭川→札幌→秋田→山形→仙台→東京、といったルートを予定しています。ロブさんは、18切符を使った長期の一人旅の経験はありますか?

ロブ(以下、R):僕ね、18切符って憧れなんですよ。高校の時に、定偏差値校だったから、渋井さんみたいに北海道まで大学見学に18切符使って行けって言われて、行こうと思ったけどなんか行く気のない学校に長時間の旅はって感じでした。一人旅はないですけど、予備校のときかな。武蔵野線に乗って知らない街に行ったり、京浜東北線で大宮から大船まで意味なく何回も行っていました。あと、湘南の海とかも大学に意味なく一人で冬なのに、ぶらぶらいきました。渋井さんの今回の旅は、慰安旅行みたいなモノなんですか?

S:慰安旅行などの明確な目的はないんです。大学生の時から、18きっぷを使ったり、フリー切符を使ったりして、その期間中の旅はよくしていましたので。今回は、なんとなくです。たまにやりたくなるんです。でも、今回のように長期の一人旅は10年ぶりでした。
 大学生のとき、18きっぷを使って、夏休み中に、広島・長崎を訪問したことがあります。卒業旅行も18きっぷを使いました。そのときは九州に行きました。熊本までですが。また、フリーきっぷを使って、天の橋立てに行ったり、紀伊半島に行ったりしました。仙台の作並温泉に行ったときもフリーきっぷを使っていたと思います。
 ただ、今回の旅で気がついたことがふたつあります。一つは、あらためて思ったのですが、新幹線の影響です。特に仙台は東京から1時間ほどで着いてしまうので、東京の郊外と同じ感覚になってきている。仙台に来たのは10年ぶりだったのですが、まるで、町田を見るようでした。銀行に行く途中に消費者金融のATMがあるんです。潜在的に消費意欲を駆り立てているような気がしました。
 また、新幹線の影響で、JRの赤字路線が廃止になっていますよね。岩手(いわて銀河鉄道)や青森(青い森鉄道)の一部は第三セクターになっています。新幹線ができると主要都市の駅以外は採算が取れないのでしょう。これは長野新幹線が出来たときと同じです。長野新幹線の場合も、在来線が第三セクターになりました。ただ、群馬県の横川と軽井沢の間は第三セクターもありませんよね。
 こうした採算が取れない路線の第三セクター化によって、18きっぷではこの区間が利用できないのです。旅の途中、これに疑問を持っている旅行者もいました。これは18きっぷの旅に影響が出るでしょうね。
 そのため、JR等でも、一部はその対策をしています。それが今回、私も使用した「北海道・東日本パス」です。青森や岩手の第三セクターでも、この切符では利用できるのです。東北地方を旅行するには18きっぷよりも便利です。
 ただし、18きっぷは、1日分が5枚一組で、日にちをずらしたり、二人で使うこともできますが、「北海道・東日本パス」は一人でしか使えなく、連続した5日間しか使えません。まあ、私は一人旅で、その日その日に泊まる都市を変えているので、ちょうどよいですが。

R:旅ではないですが、合宿免許で沖縄県の糸満市にノンフィクションライターの藤井誠二さんと滞在したのは良い経験でした。旅行では見られない、聞けないような地元住民の話が聞けました。
 そのとき驚いたのは、沖縄の若者は、地元に愛着のある人がどんどん少なくなっているということです。「だって、何もないこんなトコより、ナイチ(本州)の大きな街に住みたい」と言うのです。
 でも、大人も沖縄の財政状況の悪さは痛感してるようで、「仕方ないさあ。」とサバサバとした感じで答えました。沖縄に何か癒しを求めて行く人は後を絶ちませんが、旅として、観光として行っただけで「沖縄楽園幻想」を抱くのは危険だと思いましたし、なんか生きづらさの解消のために、沖縄に行く人は地元民を困らせてるだけだなと感じましたね。

S:生きづらさの解消のための旅でも私はいいとは思いますよ。それが観光という産業に組み込まれているものですし、それに、解消できたとしても、一時的であり、日常に帰ってしまえば、再び問題はふりかかってくる可能性は大きいですけどね。旅の目的はなんでもいいと思いますよ。
 「旅行では見られない」とロブさんは言いますが、それは「旅行」の方法にもよります。地元の人の話を聞けるという意味では、旅行でも十分聞けます。どこにいけば、その街の人の本音を聞けるのかを探せばいいわけです。本音を聞くことが何の意味があるのかはわかりませんがね。
 たしかに、観光だけで、「沖縄楽園幻想」を抱くのはいけないことだと思います。1970年に、国鉄(現在のJR)が「ディスカバージャパン」と銘打って、国内の電車旅行を宣伝していたことがあります。今回の旅でも、それ以前の旅行でも「こんなところが日本にあったのか」という発見、というか気づきはあります。
 特に、私のような東京を中心に見ているメディアの人間にはあらためて、「東京は日本のほんの一部」だということを再認識させられます。かつて、長野県の新聞社にいた時、木曽谷で取材をしていたのですが、まさに、そこは「ディスカバージャパン」と銘打った当時そのままの観光地があります。
 しかし、そこで住んでいる人たちの希望のなさ、一方でそれでもなにかできることを探すといった現実を目の当たりすると、旅行するときの目も変わってきますけどね。今回も日本海側の旅の途中、海沿いの小さな集落を目にしました。私の日常から考えれば、「ああ、これが日本海側の風景か。すごいな」だけで終わってしまいます。
 しかし同時に、「ここに住んでいる人たちはどんな生活をしているのだろう」と思ってしまうと、旅行気分ではなくなる。旅行の意味がない。旅行は、日常から切り離されるから成り立つと思います。
 それにしても、ロブさんはこれまでどうして一人旅をしなかったのですか?

R:結婚して、子どももいるとなかなか一人旅なんて出られませんよ(笑)それ以前は、大学生時代に日帰りでぶらっと日光辺りまで行ったことはありましたが、 今回の渋井さんのような長旅だけでなく、一泊二日の旅もないですね。
 なんでかっていうと、お金と時間がなかった。それと、その頃は旅行って女の子や(笑)、 友だちと行く感覚の方が強かったかもしれません。でも、大学に落ちて二浪目が確定したとき、日本海側に向かって、自分を見つめ直す一人旅、自殺予定の一人旅は計画したことがありました(苦笑)結局、予算がどうしてもなくて決行できませんでしたけど…。
 でも、時間と余裕さえあれば一人旅はしたいですね。今回の旅以外でも、何か印象的な一人旅って渋井さんにはありますか?

S:結婚と子どもは、たしかに、一人旅をしない、というか、できない理由になりますよね。まあ、一泊二日くらいなら、仕事だとごまかしていけなくもないけど、1週間くらいは無理ですね。海外取材でもしない限り。
 ただ、予算がなくても、昔はみんな一人旅をしていたんじゃないの?ユースホステルに泊まるとそんな話ばかりだったし。私だって、大学時代は18きっぷと安宿を探して、そしてたまには駅で泊まりましたしね。
 当時は18きっぷは1万円で、旅のトータルも3万以内ですませていたような気がします。「さーくる旅」という大学のサークルに入っていた先輩は、安い旅行の仕方を知っていました。国内でバックパッカーという発想が徐々になくなっているんでしょうね。
 私は印象的な旅はいろいろありますよ。たとえば、三重県の関町を訪れたときですね。鈴鹿の、東京から見れば手前の関所町ですが、ここは、伝統的建造物群保存地区なんです。ここに、記者時代に休みをとって行きました。同地区に興味があったのと、その地区に、木曽谷の同地区の保存担当者が移り住んだことがきっかけでしたね。
 それと、天の橋立てに行ったときも、京都の京都市近辺以外のイメージを持つことができました。京都って海あるんだな、って実感しましたよ(笑)。山城温泉に行ったときも、そこに行くことを決めていなくて、偶然立ち寄りました。
 それと、結婚前に行った仙台の作並温泉も覚えています。仙台と山形を結ぶ仙山線に乗ってみたかったんです。このときは、正月にパートナーに黙って行きました。当時はケータイは持っていたのですが、作並温泉は圏外でした。連絡が取れなかったので、怒られましたよ。でも、怒られる理由がよくわかりませんでしたけどね。
 こうやって、たまーに、ぶらっと一人旅をしていますよ。予定があいまいな。今回も予定は一応立てますが、ほとんどが行き当たりばったりです。泊まる場所も、前日くらいに決めています。
 ただ、いつも思うのですが、観光ガイドって一人旅には役に立たない。最初から「ここに行く」と決めていれば、予定が成り立つのですが、そうではないし。それに、駅前の観光案内所のほうが詳しい。一人旅なら、インターネットもあるし、それで十分です(でも、いつもながら、今回も買ってしまいましたが・・・・)

R:僕が大学生に入学した1996年くらいから、サークルに入る人間も少なくなっていました。大学に何となく入学したって感じの人が多かったし、僕は文学部英米文学科なので、地味な人間が多かった。
 換言すれば、受け身な人間。でもそれは、男連中が多かった。女の子は、一人旅行というより、留学しちゃうんですよ。そもそも、英米文学科なんていたって、英語がしゃべれるようにはならない。
 もちろん、僕の大学の師匠的存在の先生は、音声学の権威でバリバリ通訳講座をやっていましたが、いかんせんキツイ授業。だから、自然に英語をマスターするために、女の子は一年留学したり、夏休みに短期留学してました。でも、そういうのは少数派で、僕のまわりには一人旅行するヤツっていなかったですね。
 最近では、自分探し目的にアジアとか行く人多いですよね。ただ、海外の一人旅で、インドは沖縄みたいに「何か自分が変わる」って思い込んで行くと、失望してしまう人が多いみたいですね。
 そもそも、旅って思わぬアクシデントが後に、良い思い出話になると思うんですよ。僕は、小学校のときの家族旅行でいつも父親の車が故障して、地元の修理工を探すのに苦労するのが通例で、当時は携帯電話なんかなかったから、山奥の家で電話を借りて、自動車修理工を呼んだりしていました。
 あと、渋井さんの出身の栃木は家族旅行でよく行きました。那須塩原温泉が多かったけど、初めての温泉は鬼怒川温泉でした。那須サファリパークも行きましたね。でも、あそこでミッション車だったから、ブレーキのかけ過ぎでクラッチの調子が悪くなって、危うくライオンのゾーンで立ち往生しかかってヒヤヒヤしてました。僕の中では、旅=家族旅行って原体験が強いですね。

S:私の大学生のころも、徐々にサークル離れは起きていて、希望の学部でない不本意入学も相当いました。だから、サークルに入るか入らないかで、大学内の人間関係はむしろ、以前よりも「島宇宙」的でした。私なんか、社会福祉のサークルだったので、他の関連サークルの人からは、社会学部の人と思われていましたからね。
 話をもどせば、旅をするかどうかは趣味の部分も大きいですね。私は今回、遠野物語の舞台になり、日本の民俗学の誕生の地・岩手県遠野市に行きましたが、これは旅をしたいと思ったときに、思いついたのです。また、青森県新郷村のキリストの墓は、ずっと前から一度は行きたかったんです。で、北に行こうと思ったわけです。
 各駅停車の旅はやっぱり疲れます。でも、方言が変わって行く様子を感じることができますし、面白いですよ。それに、旅をしながら、次回の旅は「こうしよう」「ここに行こう」とか思うわけです。きょう(4月1日)も、秋田から山形に南下中に、「奥の細道」を観光資源にしているところがあり、これもいいな、と思いました。文学や歴史に関連づける旅も好きなんですよね。
 なにはともあえ、旅をしていると、日常に戻りたくなくなる。ずっとそれで生きて行ければいいな、って思うんですが、そんなことはできませんよねえ。

(旅をしながらのメール交換)

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