2006年3月 1日 (水)

滋賀・園児殺害事件

ロブ(以下、R):2月17日に滋賀県長浜市で痛ましい園児殺害事件が起きました。

17日午前9時5分ごろ、滋賀県長浜市相撲町で「女児が道に倒れ、男児が溝に落ちている」と、女性の声で長浜署に通報があった。2人は、長浜市新庄寺町、会社員武友利光さん(29)の二女若奈ちゃん(5つ)と同市新庄寺町、会社員佐野正和さん(33)の長男迅ちゃん(5つ)で、それぞれ刃物のような物で体を数カ所刺されていた。近くの長浜赤十字病院に運ばれたが、2人とも死亡した。
 2人は市内の市立神照幼稚園の園児で、登園の途中だった。滋賀県警捜査一課と長浜署は捜査本部を同署に設置し、殺人の疑いで、同じ幼稚園に通う園児の母親の主婦谷口充恵容疑者(34)=同市新庄寺町=を逮捕した。

 捜査本部によると、緊急配備中の捜査員が午前11時ごろ、大津市真野普門3丁目の国道161号バイパス・真野インターチェンジ付近で、2人を預かって自分の長女(5つ)と一緒に車で園に送る予定だった谷口容疑者を発見した。車の中から凶器とみられる血の付いた包丁が見つかった。調べに対し、谷口容疑者は「子どもを刺した」と容疑を認めている、という。谷口容疑者の長女は保護された。

 捜査本部は、谷口容疑者の犯行の動機などを追及するとともに、若奈ちゃんと迅ちゃんの遺体を司法解剖して、死因などを詳しく調べる。

 神照幼稚園の関係者の話では、谷口容疑者は普段から近所に住む若奈ちゃんと迅ちゃんを自分の娘と一緒に車で幼稚園に送っていた、という。

 谷口容疑者の近くに住み、園児の送迎が同じ班の会社員谷村寛幸さん(32)は「4人の保護者で班をつくって、毎朝、順番に子どもたちを幼稚園に車で送っていた。きょうは、谷口さんが送迎する日だった。谷口さんは普通の人だと思っていたので、こんなことを起こすなんて、信じられない」と話していた。

 若奈ちゃんと迅ちゃんが倒れていた現場は、JR長浜駅の北約2キロの田園地帯で、工場や運送会社の営業所などが点在している。幼稚園と自宅からは、それぞれ約1・5キロ離れている。(2月17日・京都新聞)

 まず、この事件に関して渋井さんの意見をお聞きしたいんですが。

渋井(以下、S): このニュースを聞いた時に、「子どもが被害者」の事件として、大きく報道されるだろうと感じていたんです。それが友達の母親で、「集団登園」の絡みだった、ということになりましたよね。
 もし、これが匿名社会の問題だったら、たとえば、インターネットでの人間関係なら、「匿名社会は危険」といった論調になるんだろう。けど、実名社会の人間関係で、「実名社会は危険」「集団登園が危険」とならない。
 また、容疑者は中国人で、どうやら、日本人とのコミュニケーションが巧く行かなかった、との報道があります。もし事実なら、容疑者の個人的な資質もありますが、外国人とのコミュニケーションがうまくいかない地域社会といった問題もあるんでしょうね。でも、地域社会の閉鎖性を検証するような報道も今のところない。
 また、毎日新聞では、「精神不安定で通院入院歴も」(webではすぐに削除されましたが)との報道や現地での取材で、以前も、意味不明な行動をとっていた、との記事もありました。もしかすると、精神疾患の問題に還元されてしまうかも、って思いました。事件の本質とは別に、ニュースの作られ方をチェックしていました。

R:義母を殺そうという行動もクローズアップされて、余計に精神的に不安定だったことを強調されていたと思います。現在、精神鑑定も申請中ですしね。確かに、精神的不安定な部分はあったかもしれませんが、滋賀県の長浜は郊外です。
 それに、家族の形態も核家族。そんな中で子育てを独りでして、幼稚園とのお母さんとコミュニケーションを取らなくてはいけない。実際に、日本人同士の母親同士でも幼稚園のお母さん同士のコミュニケーションってのは難しいという人が多い。
 やはり、晩婚化も影響してか年齢層が多岐に渡っていて、ジェネレーションギャップを感じて仲の良いお母さんを見つけるのは難しいと相談を受けます。ましてや、今回の場合、言語の壁もあったようです。
 しかし、心配事に関しては幼稚園側に何回も相談していた。その時に、容疑者の精神状態を察して、児童相談所にも幼稚園側から連絡するべきだったと思うんです。
 そもそも、一昨年の奈良、昨年の広島、栃木幼女殺害事件を契機として、小さい子どもの命を守るために大人が付き添って、登園、帰園したりするようになった。幼稚園や保育園では入り口をオートロック化することも多くなったわけです。もしくは、子どもにGPS携帯を持たしたり。
 でも、僕が息子の送り迎えの時に思ったのは、オートロックでも親が保育園内で何かする可能性もあるし、GPS携帯も完全に子どもの位置を把握できるわけではありません。
 どこまでも、子ども以外の安全に関してもシステム的な盲点はいくらでもあるのが現状ではないでしょうか。もちろん、容疑者の育児ストレスなど様々な要因があると思いますが、セキュリティシステムが親の安心のためだけに使われている現状を考えると、類似事件がいつ起きてもおかしくないでしょう。

S:こうした事件が起きると、いつも精神鑑定が行われます。弁護側からすれば、事実認定で争うことはのぼない。責任能力の有無が争点として浮上せざるを得ないのでしょう。今回の精神鑑定がどのような結果になるかわかりません。
 しかし、精神疾患名が出されたときに、安易にその疾患が取り出される可能性がありますよね。疾患名が一人歩きしないような報道をしてほしいですね。
 こうした一人の親が送迎する集団登園や登校は、幼女殺害事件が相次いだことがきっかけでしょうか。そういえば、姪も小学校でそうした形になっていました。知らない人に連れ去れないという意味では、安心な形です。
 ただ、栃木の幼女殺害事件では、子どもと知り合いかのような報道も見られますが、そもそも事件が解決してない段階では、教訓さえ見えて来ない。奈良の幼女誘拐殺害事件では、GPS付き携帯を被害女児は持っていました。
 最近でも、子どもに携帯を持たせている親はいますが、緊急時の使い方を教えている人はどれくらいいるんでしょうか?知り合いに「子どもに110番のやり方を教えた?」と聞いてみたら、教えてませんでした。なんのための携帯なのかわかりません。
 それに、最近では、商店街に監視カメラを付けたり、コンビニのカメラも外側を向いていることがあります。監視して行けば、犯罪を抑止できると思っているようです。「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ」でも描かれていますが、たしかに、犯罪が起きたことはチェックできます。しかし、犯罪を止めることはできない。暗証番号を読み取るため、UFJ銀行に仕掛けた隠しカメラも、監視カメラ付きのATMで起きましたよね。

R:旧UFJ銀行の監視カメラ事件は、『ラジオライフ』読者なら、「そんなん、簡単にできるよ」というレベルの仕掛けです。
 また、ドコモのFOMAを代表とする第3世代携帯は、発信履歴から誰がどこにいたか特定できます。ただ、第二世代携帯を使えば、かなり位置情報の誤差が出てくる。第3世代携帯でも、携帯のアンテナの感度や気候状況によって、150m単位での誤差が出るそうです。だから、技術的には、GPS機能というのは不完全なものなんです。それに、子どもが電源を切っていれば位置情報はわからなくなる。
 アメリカの元性犯罪者にGPSを常時体に身に付けさせる州がありますが、これも再発防止にはならない。むしろ、心理的に追い詰めるだけ。性犯罪の加害者住居情報をネットで検索できるシステムも、地域住民の反対運動を加速化させ、同様に、更正より再犯実行に追いつめるというねじれが起きています。
 また、渋井さんの言うように、精神疾患でマスコミが片付ける可能性は高い。今回の事件も、容疑者の「心の闇」というマジックワードで、「ああ、私たちとは違う世界の人が起こした事件ね」という安心感を与えるだけ。精神疾患が問題ではなく、誰もが加害者、被害者になり得る可能性を惹起しなければならないと思うんですけどね。
 それと、対策を専門家がコメントしてもかなり編集されますし、対策は、その地域特性も加味されなければなりません。そういう意味では、こういう事件が起きたときに、全国レベルで地域ごとの対策会議を開くことを義務づけるくらいの法案があった方が良いような気がします。

S:子どもの地域での安全対策は、衆議院の「青少年問題に関する特別委員会」でも、議論されています。2月14日に、小宮信夫・立正大学文学部社会学科助教授は、犯罪が起きやすい場所を指摘しています。いわゆる、割れ窓理論等を紹介しています。誰にでも入りやすく、見えにくい場所で起きると。でも、そうした場所は、大人に監視されないという意味では、子どもの遊び場としても最適な場所です。「秘密基地」を作ったりしますよね。私もやりましたが(笑)。
 また、小宮氏は「大人を無視しなさい、大人を信用するな、人を見たら犯罪者と思え、こういう教育になってしまっているんですね。ところが、学校じゃ全く正反対の教育もしています。あいさつ運動とか、あるいは親切にしましょうと。知らない人にも親切にしましょうと教えているんですよね。そうすると、子供にとっては、無視すべきなのか、親切にすべきなのかわからなくて混乱してしまう」とも述べていますが、たしかに、子どもはどうしていいかわかりませんね。
 ただ、地域での安全教育で難しいのは、時として、不審者ではなく、地域の人が加害者になることがあることです。今回の滋賀・長浜市のケースもそうです。栃木のケースも、犯人が知り合いだった可能性が指摘されています。僧侶や警察官、教員、公務員、または親や兄弟姉妹といった人達が加害者だったりします。そうすると、子どもからすれば、誰を信じていいかわかりません。
 だから、地域で話し合うことは必要かと思いますが、こればかりは、話し合ったことで解決するものではないのではないか。かえって、地域で対策会議を義務化しても、なんらかの都合で出席できない人を「不審者」扱いしかねない。
 奈良県の幼女誘拐殺人事件後に出来た、「子どもを犯罪の被害から守る条例」は、問題点がすでに指摘されています。11条や12条は、「正当な理由」がない声かけが制限されています。別件逮捕の理由にもされかねません(この他にも、「児童ポルノ」の単純所持も禁止されていますが、児童ポルノの定義の曖昧さや単純所持の是非もそれほど話し合われた形跡はありません。この条例の問題点は、ARC代表の平野祐二さんも指摘しています)。
 それに、子どもが被害にあう犯罪がどの程度あって、危機感を抱いているのか。鹿児島県警のサイトにある「被害率でみる子どもの安全度合い」をみてみると、最近注目を浴びた滋賀県、栃木県、広島県、奈良県は、年によって増加することもありますが、それほど危険度が高いわけではありません。
 となると、危険な地域だから、注目されるような犯罪が起きる、といったことは言えないのではないか。あくまでも犯罪統計を元にしていますから、事件が認知されていないだけとの可能性もありますが。


R:警察の検挙件数と認知件数は、強姦事件が最たる例なように、大きな開きがあります。様々な被害にあった人たちが、世間体を気にして警察に行かないことも要因の一つでしょうし、犯罪の立件が難しい場合、拘留しても、証拠不十分の場合、「犯人も、反省してるから」などの説得で、被害者に起訴を断念させるケースもあります。
 それと、治安の善し悪しの地域格差は世界中どこにでもあります。だから、「なんで、こんな平和な街で、こんな残虐な事件が…」という思いに駆られる人が多い。そもそも、性善説を元に人間を判断するから、根拠無き安心にすがりたがるのではないでしょうか。
 これは、僕の性格的な問題ですが、個人的に人間性悪説を信じています。だから、人間を心の底から信じることはできないし、このような事件のときも、自己防衛説を唱えてコメントがカットされることも多々ありました(苦笑)

S:私は性善説でも、性悪説でもないのです。人の行動は、個人の資質と、その人をとりまく人間関係、時代の 変化、メディアの状況、教育などによって、決まってくるでしょうし。そして、どの行動を善として、悪とするかは、その人が所属する共同体の道徳や規範に よって変化するでしょうから。

R:犯罪も、自殺も根絶することはできません。しかし、減らすことはできます。そういう観点からの議論が行われない限り、再発防止力を強化できないないのではないでしょうか?
 また、逆の視点から考えると、集団保育や児童性愛指向者が必ずしも危険に結び付くという言説は慎むべきだと思います。集団保育によって助かっている親もたくさんいます。
 それは、自分が個人で送迎する保育園に息子を通わせている実感からもわかります。また、小児性愛指向者も、ネットの普及でネット内で欲求を処理してる人も多い。だから、陰と陽の両面から様々な議論が起こって欲しいと思っています。

S:たしかに、ロブさんの言うように、犯罪も自殺も減らすことができるかもしれません。ただ、そこで注意すべきは、減らすことと、生きづらさを感じる状況でなくすことはセットでないといけないだろうと。
 犯罪は統計上、減少している。統計上の誤差(つまり、発生と認知の誤差)が少ないと思われる「殺人」も減ってきて、殺人も戦争もないとなれば、世界で一番人を殺さない国になっている。これは、宮崎学さん、大谷昭宏さんの共著『殺人率』でも示されている。だから、殺人があると「目立つ」というのもあるでしょうね。しかし一方、自殺は増加傾向で、98年以降は3万人を超えている。殺人とは逆で、先進国では一番自殺する国なのです。
 話題がずれましたが、子どもの安全を地域で考える必要はあります。しかし、過度に考えすぎて、共同体の監視を強めても、かえって、共同体が窮屈になっていくので、生きづらくなるのではないか。子どもに、大人への不信感を強めず、かつ、CAPなどで行われている自己防衛のため力=エンパワメントをどのように養うか。いずれにせよ、一つの事件に過剰反応しないでほしいです。報道も、地域の人たちも。

(060228までの、メール交換にて)

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