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2006年2月 1日 (水)

ライターへの道

渋井(以下、S):私はまだよくわからないのですが、どうして、ロブさんがライターという選択をしたのか。今の奥さん、当時の彼女が手首を切っていて、どうしていいかわからなかった。そのためにいろいろ調べた。ここまではわかります。でも、結果として、雑誌「バースト」に、彼女以外の人を含めたルポを発表しますよね。なぜ、調べるだけでなく、それを執筆したんでしょうか?

ロブ(以下、R):う〜ん、執筆したのは、この世界に誘ってくれたライターの今一生さんが、「一緒に、書いてみない?」と誘ってくれたんです。

S:そういえば、私とロブさんが最初に顔を合わせたのも、今さんの事務所でしたね。あのころは、ほとんど話していませんが・・・。

R:当時は、「雑誌に自分が記事をこんなに簡単に書けるものなのかな?」と半信半疑で、とりあえず、「流れに乗っちゃえ!」みたいな感じでした。だから、執筆した理由ってのは、かまってちゃん的な自傷行為をしている人たちがいるということを一般の方に知らせようとか思ってなかった。だって、当時の「バースト」は、マイナーでしたからね。
 でも、まぁ、ライターと名乗るからには雑誌かなんかで書かないと、嘘ついてるような気持ちもありました。だって、せっかく掴んだチャンスなんだから、ちょっといかがわしい今さんの考え方にも反対することもないって思ってましたよ。ただ、以後は半年以上ライターとして執筆することはありませんでした。


S:ライターになったのは「流れ」ということですか。ただね、彼女が手首を切っていて、調べようというのは、もともと助けたいというのはあったんじゃないのか?て思ったんですが、それはなかったの?


R:助けたいって気持ちはありましたよ。でも、彼女の症状も落ち着いてきて、「同じように悩んでいる多くの人を救いたいという」神様みたいな誤解をしてしまったんです。
 そのきっかけが、現在も僕のHP(RESTLESS HEART)にある「自傷らーの館」という掲示板です。
 掲示板を開設した頃は、「調べると」いう気持ちから、「救いたい」という気持ちにシフトしていました。インターネット利用者が少なかったおかげで、あの頃は、掲示板で自傷行為を告白するだけで、気分が楽になった人がたくさんいました。

S:たしかに、あの当時は、掲示板で告白したり、自らのサイトでカミングアウトすることで、楽になる人は多かったですよね。そうしたネットでのカミングアウトの有効性がわかってきたころでした。だから、私も、生きづらさ系の掲示板をいくつか作り始めましたから。
 ただ、ネットでカミングアウトすることで、かえって「自傷的な世界」=「生きづらさを抱える世界」から抜け出せない人も出てくるのですが、当時はそれほど意識してなかったですね。
 そういう意味で、ネットでいろいろ調べようという考えは、当時の私にもありました。ロブさんも、自傷行為に関する告白というか、独白のような場を設けて掲示板「自傷らーの館」を 開設したってことですが、それ以前に、サイトを開いていましたよね?
 その前は、自傷行為をする人たちとの交流は特に意識してなかったと思うんですよ。そのときは、ネットでどんな交流を目指していたんですか?


R: ああ、「まったり生きたいけれど生きられない人のBBS」(現在は閉鎖)ですね。伝説の掲示板(笑)。正直、ネットでどんな交流ができるのかいまいちわからなかったんですよ。「まったり〜」の方ではオフ会なんてできないと思ってました。
 だって、2ちゃんねるの連中が多かったし、直接会ってみたいという気持ちが起こらなかったから。でも、「自傷らーの館」の方では、個人的につながりができてきて、掲示板をきっかけとして、最終的には実際に会って、交流を深めたいという気持ちはありました。
 だけど、ぶっちゃけて言うと、宮台真司=援助交際的 なもの、ロブ@大月=リストカットという図式を戦略的に構築したかったし、それにはどうしたらいいか、 ネットを使って日々考えていたら、「バースト」執筆から半年以上も、何も執筆していなかった。それでも、 やばいって感じはありませんでした。大学を留年して、モラトリアム期間だったから(笑)

S:「まったりBBS」は、懐かしいですね。あのときの人脈が多少、今でも続いていますよね。そのころ、(宮台さんの言説になぞらえた)宮台系のサイトやBBSが多く出来て、ロブさんも立ち上げていましたね。やはり、宮台さんことを意識していたってことですか?すごいですね(笑)。

R:宮台さんを意識してなかったと言えば嘘になります。援助交際してる女の子が自傷行為をしてるってことも多いとわかってきた時期でしたし、僕自身、やたらと彼の言説に敏感だった。

S:それにしても、その後、それほど雑誌等に書いていないロブさんが、単行本の執筆にかかりますよね?あのとき、共通の知り合いの編集者がすすめていたので、リアルタイムに企画進行等は 知っていました。
 それほど執筆していない自分が単行本を書くことはどう思い ましたか?他人事としてみると、私はまだ単著を出していない時期でもあったので、「羨ましいな、ラッキーだな」と思う反面、「大丈夫か?」かとも思ってましたが。


R:「自傷らーの館」のオフ会で、知り合ったラー油という女の子が、自殺してしまった。ショックでしたね。毎日、「なんで、助けられなかったのか」とやけ酒を一人で飲み続けました。そして、彼女のお母さんと会って、背負ってきたものの大きさを再確認した。しかも、自殺する直前まで悩んでいたことを僕だけに託していた。
 その話を、編集者にしたら、「何か、本にまとめられないかな」と声をかけられて、処女作『リストカットシンドローム』を書くことになったんです。自分の執筆経験のなさは不安要素でしたよ。
 そもそも、ルポの書き方なんて知らなかったから、何十回も書き直したし。取材だって、手際が悪くて、取材対象者には、迷惑をかけたと思います。出版直前まで、「こんな自分が本を出して良いのか?」と毎日自問自答しました。死にたくなるほど、悩み抜いた末の処女作デビューだったんです。


S:彼女を助けたい。そのために取材を初めて、ネットでフィールドワークも始める。その結果、処女作の発表に至る、ということですよ。ということは、ロブさん自身が当事者(初めは彼女をサポートする立場ですが)で、当事者の人たちをルポするといった、はっきりとした立場がありますよね。
 私の場合は、漠然とした「生きづらさ」は抱えていても、それがはっきりとした形(たとえば、家出や自傷行為など)に現れるわけでもない。そういう面からすれば「当事者」ではない。そういう私が自傷行為や家出、援助交際などを行動化(アクティング・アウト)をする人たちを取材し、ルポするのとは違いますよね。
 どちらかがいいとか悪いとかではなく、当事者だから、あるいは当事者ではないから、聞けること・聞けないこと、書けること・書けないことがあるんだなと思います。

(つづく)

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